UXライティングとは何か
UXライティングとは、ユーザーがデジタルサービスを操作する際に必要となるテキストを書く技術です。例えば、登録時のスタートガイド、利用の流れコンテンツ、タイトル、ボタン、画面上の説明文、エラーメッセージ、通知などの言葉がUXライティングの手法に則って書かれます。サービスの中にある言葉に対して「意味が通じればいい」という思想で書くのではなく、「ユーザーがサービスを通じて体験する一連の経験を設計する」という思想で書くのがUXライティングです。
UXライティングに求められる技術とは
UXライティングには、分かりやすく書く技術と、人間らしく書く技術が必要です。この二つの技術が同居することによって、ユーザーの体験を支援することができます。
分かりやすく書く技術
UXライティングの手法に則ってテキストを書く際に求められるのは、「ユーザーの気持ちに沿った文章を書く」という抽象的なことだけではありません。文法構造が複雑でない、平易な文章を書く技術も同様に必要です。正確に書かれていないテキストは誤解を生み、ユーザーに複数の解釈を引き起こします。そして、意図しない挙動や事故、クレームにつながるのです。正確で読みやすく、信頼性の高いテキストを前提としながらユーザーの体験を設計することが求められます。
人間らしく書く技術
分かりやすさのうえで必要となるのが、「人間が発するような言葉」を書くことです。人は、PCやスマートフォンで操作するシステムに対しても、実際の人間に抱くのと同じように感情を抱くことが明らかになっています[*出典]。そこでユーザーに意味を伝達する役割を果たすのがテキストです。人は、無味無臭な言葉や役に立たない言葉には「無機質で無神経だ」というイメージを、正確でも批判的な言葉には「嫌いだ、イライラする」というイメージを、ポジティブで賞賛するような言葉には「好ましい」というイメージを持ちます。そこでUXライティングに必要となるのが、システムの言葉を、機械の言葉としてではなく人間の言葉として書くことです。
[*出典:『The Man Who Lied to His Laptop: What We Can Learn About Ourselves from Our Machines』]
「ユーモアのあるコピーを書く仕事だ」という誤解
多くの人が、UXライティングをイメージする際に、「Oops!もう一度やってみよう!」のようにユーモラスなコピーを想像します。しかしユーモラスなテキストは全体のごく一部です。例えば、海外旅行に行くという体験が、「飛行機に乗ること」だけではなく「ホテル、到着した先での食事、みやげ屋での買い物」といった、あらゆる体験を包括したものであるのと同じように、製品内のあらゆるテキストを通じてユーザーの体験を支援するのがUXライティングです。
UXライティングの目的
UXライティングの目的は、ユーザーに対して、サービスの意図を伝えることです。テキストはサービスの95%を占めると言われ[*出典]、ユーザーの理解度や満足度に影響します。テキストは、ユーザーをゴールまで誘導し、トラブル時に解決まで導き、ユーザーに好きになってもらうために書きます。サービスには非常に多くのコンテンツがありますが、そのどれもが等しく重要です。
[*出典:『Web Design is 95% Typography』]
戦略的にテキストを書くことは、成約率の向上につながります。伝え方を変えることで、ユーザーの受け取り方が好感的になり、コンバージョンが高まることがスタンフォード大学の研究でも明らかになっています。
また、サービスの運営に関わるコスト削減を図る効果もあります。ユーザーが疑問に感じるボトルネックを解消することで、不必要な問い合わせを抑えられるためです。例えば「ログインする」というテキストに対して「なぜ申し込みしたいだけなのにログインの必要があるのか」といった問い合わせが多い場合には、ログインすることで得られるメリットを記載することで問い合わせコストを減らすことができます。
海外におけるUXライティング
海外では、多様なサービスがUXライティングの手法を戦略に組み込んでいます。Amazon、Adobe、Airbnb、Apple、Google、Netflix、Lyftなどがその例です。企業がUXライターの募集を行い始めた時期は比較的最近で、例えば、Adobeでは2010年代後半に、300人以上いるデザインチームに最初のUXライターが加わったと公表されています。Spotifyでは、UXライターを、デザインチームの中で、ユーザー中心のコンテンツとマイクロコピーを書く位置付けと設定しています。
UXライティングを担うポジション
UXライティングを担うのは、UXライターだけではありません。会社によっては、ポジションの名称がつかないまま「プロダクトの文章を書く役割」として、エンジニアやプロダクトオーナー、マーケティング担当、デザイナー、ディレクターが書く場合もあります。コンテンツストラテジスト、UXコピーライター、コンテンツデザイナー、プロダクトライターといった呼び方をされることもあります。どの部門が担うかに関わらず、ユーザーをプロダクトの中心に据えているサービスにおいては、ユーザーとの接点であるコピーや文章を、デザインの一部として重視する傾向があります。
UXライティングの方法
1. ゴールを定める
ユーザーに達成してほしいゴールと、サービスを運営する企業が達成したいゴールを明確にします。ここで定めたゴールまでユーザーを導くことが、UXライティングを通じて目指す目的となります。プロダクトオーナー、デザイナー、エンジニアなどとともにこのゴールを共有して目指します。
2. 調査する
制約や法律、制度を調査します。制約とは、リソース上の制約や、デザイン上の制約です。例えば、入力フォームなどのページのデザインがまだ完成しておらず、入力例を記載する専用のコンポーネントが存在していない場合には、入力例をプレースホルダーに記載することもあります。重要なのは、チームの状況にあわせて最適なテキストを配置することです。法律や制度とは、国が定めるルールの中で、サービスと関連するものです。例えば、子どもや福祉、医療などに関わるサービスでは、しばしば国によるガイドラインが設けられています。これらのルールを理解し、意図から外れたテキストは記載しません。
3. ボイス&トーンを定める
性格をあらわすボイス、態度をあらわすトーンを定めます。オンラインでコミュニケーションを取るためには、テキストを「システムの言葉」として書くのではなく「人間らしい言葉」で書きます。そのために役立つのがボイス&トーンです。ボイス&トーンはサービスを通して一貫したものを使用します。一貫していない態度はネガティブな印象を与えるからです。ボイス&トーンに則ってインターフェースのテキストを書くことで、サービスの印象を覚えてもらえるようにします。
4. テキストを書く
ボイス&トーンに則って、タイトル、ボタンやリンク、ディスクリプション、エラーメッセージといったテキストを書きます。デザイナーが用意したUIを制約と考えるのではなく、ユーザーにとって最適なUIを検討します。すべてのテキストは分かりやすく、文法エラーがなく、シンプルな文型で書く必要があります。難しい単語や、独自に使用している単語ではなく、ユーザーが普段使う単語を使います。理解しやすい情報でなければ、ユーザーはテキストを読まないためです。
5. 検証する
テキストがユーザーの行動によい影響を与えているかどうかを確認します。ユーザーからの問い合わせを確認したり、アクセスを解析したりすることで、意図しない動きをしていないかどうかが分かります。加えて、ユーザーにインタビューを行い、ページの内容を十分理解しているのか、どういった印象を受けているのか、用語を正しく理解しているのかといった点を確認します。
6. テキストやUIを改善する
ユーザーの解釈に不十分な点がある場合にはテキストを改善します。UIが適切でない場合には、UIを改善することも検討します。例えば、本来トーストではなくページ遷移でエラーを伝えるべき場面で、トーストを用いているがためにユーザーが状況を理解できていない場合には、テキストではなくUIを適切なものに変更する必要があります。修正後には再び検証して、改善を繰り返します。
本ガイドについて
本ガイドで対象とする範囲
本ガイドでは、UXライティングの範囲を、ユーザーが実際にサービスそのものとの接点を持つところから開始すると定義します。ユーザーは、企業の営業活動や広報、広告、ブログ、SNS、記事などのマーケティング活動を通じてサービスを知り、実際に利用を開始します。そこから先がUXライティングの役割だととらえます。
本ガイドでは、ユーザーとのインターフェースとなる、タイトル、ボタン、ディスクリプション、ラベル、フォーム、通知、エラーメッセージといった箇所のテキストを中心に取り扱います。ユーザーが問題を解決し、自信を持って次のステップに進むことに焦点を当て、できるだけテキストをシンプルで明確に書くための手法を提供します。
本ガイドで対象としない範囲
感覚的なエモーショナルコピーはUXライティングの範囲外とします。例えば「そうだ 京都、行こう」などのように、情緒的なコピーは取り扱いません。
参考文献
- Torrey Podmajersky『Strategic Writing for UX』O'REILLY、2019
- Hoa Loranger『Plain Language Is for Everyone, Even Experts』Nielsen Norman Group、2017
- Jakob Nielsen『Legibility, Readability, and Comprehension: Making Users Read Your Words』Nielsen Norman Group、2015
- Clifford Nass、Corina Yen『The Man Who Lied to His Laptop: What We Can Learn About Ourselves from Our Machines』Current、2010]