目的
  • 児童が苦手意識なく作文を書けるようになるための支援
効果
  • 特別な支援を必要とする児童の作文能力の向上

小学生・中学生の作文支援にAIを活用

——松浦さんの活動内容を教えてください。

ことばの発達支援・学習支援室「DIVERSE」での活動を通じて、言葉の発達や非流ちょうなど、言語面で支援が必要な子どもに対する発達・学習支援を行っています。それぞれの子どもに合わせて、読み書きや会話といった、ことばの支援に取り組んでいます。

——現在wordrabbitを活用しているのは、どのくらいの年齢の子どもたちでしょうか。

現在wordrabbitを使っているのは、小学校5年生から中学校2年生までの子どもたちです。

——子どもたちは、どのようなシーンでwordrabbitを活用した学習を行っているのでしょうか。

子どもたちが作文の練習をする際に、wordrabbitを利用しています。まず、子どもたちがwordrabbit上で文章を書きます。書くたびに助詞や文法の間違いが添削されるので、子どもたちは修正案を取り入れて学習しながら、作文を書き終えます。その後、プライベートレッスンで、子どもたちが書いた文章をもとに、内容面や全体の構成など、より深い点についての支援を行うという流れで活用しています。

子どもによっては、プライベートレッスンでの課題以外でも、自由に日記や学校の課題の下書きなどをする用途でも活用しているようです。

AIを活用して作文の学習を行う

子どもが自分自身で学び、学習できる環境へ

——wordrabbitを使うことで、子どもたちにはどのようなメリットがありますか。

文章を書くと同時にリアルタイムで修正案が提示されるため、子どもたちはすぐに誤りに気がつくことができます。AIが文法面をサポートしてくれるようになったことで、プライベートレッスンでは、より内容面に時間をかけられるようになりました。

——AIから指摘されることに対して、違和感を覚える子どもは見られませんでしたか。

子どもたちは、大人が想定しているよりもすぐに使いこなしているようでした。AIから「助詞が違うよ」「文法が間違っているよ」という提案が行われることに対しては、嫌がる気持ちよりも「そうなのか」という発見の気持ちが大きいように感じます。

最近はICT教育が進み、テクノロジーに対して苦手意識のない子どもが多いため、「AIの言うことを全て信頼して取り入れる」というよりは「この提案は採用するけれど、この提案は自分の書いたものを採用する」といった具合に、取捨選択している様子も見られます。

年齢的には反抗期を迎える子どもたちも多いため、親御さんに指摘されるとつい反発してしまう子どもたちも、「AIの意見なら聞いてやってもいいかな」といったように、受け入れやすい側面もあります。

ChatGPTなどの生成AIとwordrabbitとの違い

——ChatGPTなどの生成AIでも文章の誤りを修正することができます。生成AIとwordrabbitにはどのような違いがありますか。

ChatGPTなどのサービスは、文章自体が流ちょうに書き換えられるため、子どもが書いた原文は生かされません。現段階では、子どもの学習を進めるといった用途に特化したものでもありません。

一方で、wordrabbitは原文を大切にしながら、よりよく書けるようになるためのサポートを行うツールです。ChatGPTなどと同じくAIを用いたサービスですが、コンセプトは大きく異なるように感じます。

——特にどのような点が異なると感じますか。

子どもの「書きたい」という気持ちが大切にされていると感じます。

例えば、wordrabbitは原文そのものを書き換えることはありません。あくまで誤りだけを指摘して、受け入れるかどうかの選択は本人に任されています。

添削の際には修正案とあわせて「なぜ修正したほうがよいか」という理由も出るため、子ども自身が理由を理解しながら学習していくことができます。

修正理由が表示される

支援を必要とする子どもたちによく見られる、助詞の誤りについても一定の精度で行ってくれます。また、添削の根拠として内閣府や出版社のルールがベースとなっているため、例えば漢字とひらがなの使い分けについて、社会生活でより違和感のない書き方を学ぶきっかけとなっている様子がうかがえます。

——子どもたちの書きやすさとしてはいかがですか。

デザイン面がシンプルで、子どもの気がそれない点が良いようです。操作画面にも赤色が使われておらず、上から目線の「赤入れ」という感覚よりは、オレンジをベースとした「やさしい指摘」になっているため、指摘された側も受け入れやすいような工夫がされていると感じます。

子どもの気のそれないシンプルな画面設計

今後も、さまざまなツールを取り入れながら子どもたちへの支援を行っていく

——最後に、今後についてお伺いしたいと思います。「DIVERSE」を通じてどのようなことに取り組んでいく予定ですか。

今後も引き続き、子どもたちが認められ、理解され、他人を認め、他人を理解しながら、「こうなったらいいな」と思い描く姿に近づいていく過程を応援していきたいと思っています。それは、言葉や学習に支援が必要であってもなくても同様です。

そのために世の中の使えるものがあれば何でも使って、笑顔の多い毎日を過ごしてほしいと思っています。現代は便利なツールが次々に開発されています。苦手があっても、サポートしてくれるツールを使いこなしながら、思い描く姿に近づく手助けができればと考えています。