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プレスリリースの書き方のコツをはじめ、取材依頼やメールの書き方について例文やテンプレートを交えてまとめました。プレスリリースとは何か?どんな意味があるのかを理解することも重要です。プレスリリースの出し方では、配信時間などのタイミングや送付先、デザインにも配慮する必要があります。成果が出るプレスリリースを出すために知っておきたい配信無料のツールや、本、書き方セミナーなどのイベントについてもくわしく解説します。
Maki Higashi
株式会社Remedies 執行役員CXO / UX Writerこの記事の目次
プレスリリース(ニュースリリース)とは、企業や団体がメディアに取り上げられることを通して、企業の活動を広く一般に周知する目的で発信する公式文章です。例えば、企業が新しい製品を出したり、キャンペーンをスタートしたりしたことをテレビや雑誌などのマスメディアに向けて発信したい場合に使われます。
多くのプレスリリースは、企業の広報担当者によって作成されて、プレスリリース配信専門のオンラインサービスなどを通じて記者やメディア関係者に届けられます。リリースの内容が直接消費者に届くことはありませんが、テレビ番組の企画・新聞・雑誌などを通じて紹介されることで、広く消費者に関心を持ってもらえます。
プレスリリースとは、メディアに取り上げられることを目的に企業が発信する公式文章。
プレスリリースを出すことの意味は、企業の活動をPRし、テレビや新聞などのメディアに取り上げられることによってプロモーション効果が期待できることです。
広報活動の大きな目的は、製品やサービスを顧客に認知させることです。個別の営業活動でリーチできる顧客数や顧客層は限られています。また自社でメディアに広告を出すと、数百万から数千万の出稿費用がかかります。そのため、メディアに取り上げられるのは費用対効果がよいプロモーション方法だと言えるのです。もちろん、マスコミに取り上げられるだけではなく、それ以外の波及効果も期待できます。
プレスリリースの意味・効果は、テレビや雑誌に取り上げられることによるプロモーションが行えること。
ほかにもプレスリリースの効果として、社会とよりよい接点を構築できる効果(PR=Public Relations)や、組織のモチベーションをアップする効果が期待できます。発信を機に有名メディアから取材をうけることで、社員採用の際に応募数が増加したり、社会的な信用力を向上させたりする役割もあります。広告よりも割安にプロモーションできるというだけではなく、企業の価値を高めることができるというメリットがあるのです。
プレスリリースによって期待できる波及効果の例
プレスリリースを書く際には、定型の書式(ひな形)に沿って作成するという特徴があります。記者は一日に何十、何百ものリリースを目にするため、文章のパターンが形式化されていたほうが読んでもらいやすいことから、テンプレート化されたと言われています。
作り方のポイントで最も重要な点は、リリースを読む記者やテレビ局ディレクターの立場になることです。記者は非常に多忙で、一見して興味がないリリースや、内容が複雑で分かりにくいリリースには、目を通すこともないためです。定型の体裁に沿いながら、伝わりやすく目を引くものを目指す必要があります。
プレスリリースのテンプレートは「レターヘッド、タイトル、リード文、本文、画像、連絡先」の6つの要素に分けられます。記者やテレビ局のディレクターに短時間でポイントを理解してもらうために、ある程度の雛形に沿って書くことが求められます。このフォーマットは、絶対に崩してはならないというルールではありませんが、国内で出されるリリースの多くはこの形式通りに書かれています。
レターヘッドには、「プレスリリース・企業名ロゴ・日付・報道関係各位」の4つの要素を記載します。「プレスリリース」というテキストは、Press ReleaseやNews Releaseなどの記載でも問題ありません。毎回決まったレターヘッドを使用することで、読み手に企業名を覚えてもらえるようにします。
タイトルには、プレスリリースを通して一番伝えたいメッセージを簡潔に記載します。タイトルの文字数は100文字程度におさめ、さらに長く記載したい場合にはサブタイトルに分けて記載します。サブタイトルも100文字程度におさめます。これは配信代行サービスを使用する場合に文字数制限があるためです。
タイトルは、最も力をかけるべき箇所です。記者はタイトルを見て、本文を読むべきかどうかを判断するためです。そのため、目をとめてもらうことを何よりも重視します。タイトルを書く際のコツは、「ニュース性」、「キャッチーさ」の2点に注力することです。
1点目の「ニュース性」とは、世の中のタイムリーな関心事や社会問題とリンクしているかということです。タイトルにニュース性がないと、記者はその先にいる消費者に興味をもってもらえるかどうかが判断できず、手に取りにくくなります。例えば、少子高齢化、環境問題、時事問題、若者の流行などにからめて発信することで関心を持たれやすくなります。
2点目の「キャッチーさ」は、ありきたりの表現ではなく目を引く表現をしているかということです。毎日多くのリリースが発信される中で、ワンパターンでどこかで聞いたことがあるようなタイトルは目立ちません。「新商品発売のお知らせ」「セミナー開催のお知らせ」のような使い古された表現ではなく、記者がそのリリースを読む理由を意識して書くことが大切です。
タイトルの例
「Desktool」をリリース
新型コロナ影響による企業のリモート勤務をサポート。オンライン会議ツール「Desktool」リリース
タイトルの注意点として、インパクトのある「日本初」「業界初」などの表現を使う場合には、その具体的な根拠を記載しておきます。自社で調べた調査を根拠としている場合には「当社調べ」などの注意書きを添えます。
リード文には、リリース全体の内容で言いたいことの要旨を書きます。リード文の冒頭では、伝えたいことを一言で伝えることに集中します。文章が小説のあらすじのようにならないように、結論まで書き切ります。タイトルを見て関心を持った記者が本文を読み進めるきっかけとなるよう、重要なキーワードを盛り込むように配慮します。
リード文の書き出しは「株式会社プレスリリース(本社:東京都渋谷区、代表取締役:降州利理)では……」のような形をとることが多くあります。定型ではありませんが、よく見られる形です。
リード文の文字数は500文字程度でおさめ、全体の内容を網羅しつつ簡潔にまとめます。これは配信代行サービスを利用する場合に文字数制限があるためです。
本文は、いくつかのブロックにわけて、ブロックごとに小見出しをつけたり、箇条書きを使ったりすることで簡潔にわかりやすい文章で表現します。本文の文字数は、配信代行サービスを利用する場合を考慮し、8000文字程度でおさめます。必ずしも全文が読まれるとは思わずに、テレビの視聴者や新聞の読者が知りたいことの順番で、重要なことを前方に記載します。
本文中には、リリースで紹介する新商品やキャンペーンのランディングページ(LP)のリンクを記載します。LPは、プレスリリースを見た記者が、より詳しい内容を知りたい際の情報源として有効です。LPがない場合には、関連するWebサイトのURLを可能な範囲で記載します。ただしリンクの数が多いと導線が分散し、どのページを確認すればよいのかが一見してわかりにくくなります。多数の参考情報がある場合にも、数を1、2個に絞って記載します。
また、信頼できる情報であることを示すようにします。例えば、実際の利用者の声や、数値情報、製作した社員の声などを記載します。
リリース内には、伝えたいイメージが直感的に伝わる関連写真や画像を使用します。画像を効果的に配置することで、文章を読まなくても「こんな絵が撮れる」ということを一目で意図を理解してもらえたり、取材時のイメージがわきやすくなったりするためです。例えば、新商品のパッケージ写真や、サービス利用中の画像、製品の画像などを配置します。それ以外にも、本文中に、数値的な傾向が分かる図表やグラフを使用することで、一見して客観性がある情報であることを伝えます。
画像を選定する際は、著作権の問題がなく、記事中でそのまま使えるようなクオリティが高いものをカラーで用意します。画像のクオリティはそのまま製品や企業のイメージにもつながるため、解像度が低い画像や、ピンボケの写真は使いません。画像の色味に関しては、ファックスで送信した際にも確認できるように、コントラストがはっきりした、白黒でも意図が伝わるものを使用します。
また配信時に配信代行サービスを使用する場合には、メインビジュアルに設定したい画像を1枚用意します。メイン画像はタイトルと並んで表示されるため、タイトルの内容を補足する画像であることが大切です。このメイン画像は、プレスリリースが他サイトに転載される場合にもメイン画像として扱われます。そのため必要に応じて文字要素を入れ込むなどの工夫も有効です。画像サイズは、大きくても5MB以内におさめます。
「報道関係お問い合わせ先」として、社名、担当者名、企業所在地、メールアドレス、電話番号、携帯電話番号、FAX番号など、広報の連絡先情報を記載します。記載すべき項目に決まった形はありませんが、会社代表ではなく、広報担当者に連絡が届くようにします。
メールアドレス。個人メールアドレスではなく「pr @ xxx.jp」のようにPR関係者全体向けのアドレスとすることで、メールの見逃しや退職や配置換えによる抜け漏れを防ぐことができます。
担当者名。担当者名を記載します。担当者名は必須ではありませんが、分野によって担当者が分かれているような企業の場合には、担当者の名前を書いておくことで、コンタクトが取りやすくなるメリットがあります。
プレスリリースは、WordやPowerPointで作成します。一般的には、文章作成ソフトであるWordが使用されるケースが多く見られます。
枚数は、A4サイズ1枚程度の分量にまとめます。A4用紙1枚の長さに収まりきらない場合には、1枚目だけ読んでも内容が十分理解できるようにしながら、参考資料としてさらに1〜2枚を追加します。参考資料には、1枚目の内容を補足する内容を記載して、内容の充実感や納得感が増すようにします。例えば、開発ストーリーや、新製品の詳細な仕様、企業紹介を記載することで、記者が興味を持った際に、具体的な取材イメージがわきやすいようにするのです。
プレスリリースを書く際には、以下の15個のポイントをチェックします。プレスリリースでは、インパクトや、キャッチーさが重要な要素ではありますが、会社の公式情報として公表されるため、一定以上のレベルを担保する必要があります。誤った情報や、誤解を与える情報を公表することで、炎上につながった事例もあります。マスコミだけではなく、社員、関係各社、営業先、取引先が見ても違和感のない表現になっているかどうかを、必ず複数名でチェックし、正確なリリースを作成します。
チェックポイント一覧
種類 | チェックポイント | |
---|---|---|
1 | 文章 | 誤字・脱字・文法誤りはないか |
2 | 文章 | 専門用語を使っていないか |
3 | 文章 | 過剰な敬語を使っていないか |
4 | 文章 | 箇条書きを使って読みやすさに配慮しているか |
5 | 文章 | 数字を効果的に使っているか |
6 | 画像 | カラーでも白黒でも文字が読み取れるか |
7 | 画像 | 文字だけでなく画像が効果的に使われているか |
8 | 内容 | 内容にうそや言い過ぎはないか |
9 | 内容 | 意図的に隠している情報はないか |
10 | 内容 | 優先度が高い順のレイアウトになっているか |
11 | 内容 | 初見で読む人が最初の10秒で内容を理解できるか |
12 | 法律 | 引用・転載がある場合は許可を得ており、文中の割合は3割以下になっているか |
13 | 法律 | フリー画像や人物写真を使っている場合、著作権・肖像権に問題はないか |
14 | 法律 | 他社のロゴや社名を使っている場合、許可を得ているか |
15 | 法律 | 他社を不公平な形で比較して批判していないか |
誤字・脱字・文法誤りがないことは会社の公式文章の基本です。誤字・脱字は内容の信ぴょう性の乏しさに、文法のミスは誤読や信頼低下につながります。
業界や会社でしか使われない独自の専門用語や、定義が曖昧な言葉は使いません。報道関係者に、業界の常識は伝わらないことを意識します。
「失礼がない文章を書かなくてはいけない」と思うあまりに、敬語の間違いをするケースが目立ちます。例えば「お召し上がりになられる」など、敬語に誤りがないかを確認します。
忙しい記者が短時間で読めるように、ポイントや機能を紹介する際には、箇条書きを使って「目で見たときの見やすさ」を高めます。
効果や実態などをあらわすためには数字が有効です。報道関係者は具体的な数字を好みます。「すごい」「大量」「圧倒的な」などの曖昧な修飾語は使わずに、具体的な数字であらわします。
印刷したりファックスしたりしても画像上のテキストが読み取れるかどうかを確認します。画像や写真の色味や明るさには配慮します。
画像などを活用することで、第一印象で意図が伝わるかを確認します。プレスリリースは文章だけで表現するのではなく、全体のデザインを含めて考えます。
「世界初」「No.1」「満足度100%」などの表現を含め、うそや誇大表現は企業のイメージを失墜させます。また図表や画像が部分的に切り取られて転載されたとしてもよいように必要に応じて注意書きなどを加えます。
読み手に伝えるべき情報であるにも関わらず、意図的に隠したり、目立たない位置に配置したりしている情報はないかを確認します。内容がメディアやSNSで取り上げられた際に、誠実な情報公開を行なっていない姿勢が伝わることで、企業イメージの失墜につながります。
プレスリリースの1枚目の上部分から順に、重要な内容が書かれているかどうかを確認します。必ず最後まで読まれるとは思わずに、大事なことは前方に書きます。
内容を初見で読んだ時に、10秒で要旨が伝わるかどうかを確認します。タイトルや第一印象で、先を読み進めてもらえるかどうかが判断されるためです。
本文中に、別の著作者の文章を引用した場合には、出どころを明記するとともに、本文に対する引用文の割合は多くても2〜3割以下にとどめます。また、必須ではありませんが、トラブルを避けるために発行元に許可を得ておくようにします。
参考:東京都知的財産総合センター『中小企業経営者のための著作権マニュアル』P25
フリー画像を使う場合、外部公開文章で使用してもよいのか、画像の加工は認められているかなどを確認します。人物写真の場合は無断で撮影した写真ではないか、許可を得ているかを確認します。
参考:東京都知的財産総合センター『中小企業経営者のための著作権マニュアル』P29
他社のロゴや社名を記載している場合、許可を得ているかを確認します。許可を得ていない場合、商標権の侵害につながることがあります。
参考:特許庁『商標活用ガイド』
他社との比較を行う場合に、不公平な形で批判していないかを確認します。他社比較を行う際には、客観的に比較できる方法で行い、トラブルにつながらないよう十分に配慮します。
参考:日本弁理士会『いわゆる比較広告は不正競争には該当しないのですか?』
プレスリリースを出す最初の手順は、内容を企画することです。どのようなネタをテーマに記事にするかを検討します。よく見られるのは、商品やサービスの提供開始や、キャンペーンや新プランの開始、イベントの開催告知、大会などの結果公表、統計情報の公開、製品の企業導入報告などです。
ネタ探しのコツは、メディアに取り上げられるプレスリリース内容の特徴を意識することです。以下の特長に当てはまる企画は、数あるプレスリリースの中でも注目を集めやすい傾向があります。メディアの担当者は、取り上げることで社会にインパクトを与えられる内容を求めるためです。どれか一つではなく複数が当てはまるように企画を練っていくのがポイントです。
取り上げられるプレスリリースの特徴
ネタ探しは難しく、「プレスリリースを出すような企画がない」という場合もあります。そのような場合の解決策の一つは、広報担当者が社内の会議に顔を出して情報を収集したり、社長や役職者と定期的に打ち合わせの場を設けたりすることで、いろいろな切り口を探すことです。
企画・執筆をしたプレスリリースが完成したら、メディア関係者に向けて配信します。送り方には、配信代行サービスを利用する方法と、自社で作成したメディアリストに基づいて配信する方法があります。
プレスリリース配信代行サービスのメリットは、幅広い層にプレスリリースを見てもらえたり、メディア関係者が過去のものを検索できたりすることです。メディアリストを作成して個別配信する方法には、興味関心が高い関係者にスポットで配信できるので読まれる可能性が高いというメリットがあります。配信方法を使い分けたり併用したりすることで、適切にプレスリリースを配信します。
配信の際には、自社のコーポレートサイト内に全てのプレスリリースを掲載します。プレスリリースの情報は会社の公式情報であるため、メディア関係者以外にも多くの人の目に触れるようにしておく必要があります。
プレスリリースの配信方法
1つ目の配信方法が、「PR TIMES」「@PRESS(アットプレス)」「ValuePress(バリュープレス)」などの有料のプレスリリース配信代行サイトを使う方法です。配信代行サービスは、Webの配信プラットフォームで、ネット上からさまざまなメディア担当者宛てに一斉にプレスリリースを送ることができます。配信代行ツールにはいくつかの種類があるため、企業の方針や予算にあわせて適切なものを選択します。配信ツールを使用することで、コストはかかりますが、手間無く幅広い送信先に一斉に発信することができます。
プレスリリース配信ツールの金額は、単発で配信する場合1回3万円程度が相場で、月額では3〜8万円の定額プランが設けられています。リーズナブルなものの場合、「ValuePress」が1配信3万円、月額3万円と7万円のプランがあります。
プレスリリース配信プラットフォームの料金
配信サービス | 料金例 | 媒体登録数 | 配信数 |
---|---|---|---|
PR TIMES | 3万円(1配信)・8万円(月額) | 12000媒体・16000名(個人記者) | 最大300媒体+16614名 |
ValuePress | 3万円(1配信)・3万円(月額)〜 | 11000名(個人記者) | 最大1000名 |
@PRESS | 3万円(1配信)〜 | 8500媒体 | 最大400媒体 |
共同通信PRWire | 78000円(単発) | 2250媒体 | 非公開 |
プレスリリースゼロ | 無料 | 非公開 | 非公開 |
※2020年2月現在の、各社公式サイトからの情報です。
プラットフォームごとの違いとして、「PR TIMES」は最大手、「ValuePress」は比較的リーズナブル、「@PRESS」は実績が多いという特色があります。それぞれ費用や配信媒体数に違いはありますが、複数のメディアのデスクや記者に対して一斉にプレスリリースが配信できる機能に違いはありません。
プレスリリースを無料で配信できるサービスとしては、「プレスリリースゼロ」が有名です。配信費用は完全無料です。ただし無料でどの程度の効果が期待できるかは公表されていません。
大手の「PR TIMES」「ValuePress」にも無料プランがあります。例えば「PR TIMES」には設立2年未満のスタートアップのプレスリリース配信が無料になるプランがあり、「ValuePress」には20媒体限定の無料フリープランが設けられています。条件が合えばこれらのサービスを使うことも検討します。
一斉配信ツールのメリットとしては、コネクションがないメディアにも一斉配信できることや、TwitterなどのSNSアカウントにも同時配信されることがあります。多くのメディア担当者へ幅広く配信されるため、そこから取材につながることがあります。
配信代行サービスのメリット
反面、配信代行サービスのデメリットは、配信したものの反響がなく、効果が見えにくいことも多いという点です。広報担当者は一斉配信ツールを含め一日に何百通ものリリースを受け取るため、その中から「まず興味を持って手にとってもらう」だけでハードルが上がります。
配信代行サービスのデメリット
2つ目の方法は、自社でメディアリストを作成して配信する方法です。メディアリストとは、自社の活動に興味を持ちそうな報道関係者の配信先一覧をまとめたリストです。
配信方法としては、メール・Fax・郵送などがあります。メールで配信することがほとんどですが、場合によってはFax・郵送で送ったり、手渡しを行ったりします。
メディアリストを作成して個別配信するメリットは、取材につながる可能性が高いメディア関係者にだけプレスリリースを配信できることや、一部の関係者にだけ前もってリリースを配信できることです。記者はそれぞれ担当分野を持っています。業界や商品に高い関心を示しそうな記者にだけ配信することができるため、読み飛ばされる可能性が低くなります。場合によっては、前もって情報をリークすることで特定のメディアに取り上げてもらいやすくなります。
メディアリストのメリット
メディアリストのデメリットは、リストを作成する手間がかかることです。どのようなメディアにリーチすべきかは企業やサービスによって異なるため、それぞれに最適なリストを自身で作成する必要があります。作成後も、担当者の異動による配置換えがあるため、定期的なメンテナンスは必要です。
また、リストの連絡先へ一方的に配信するだけの関係性ではなく、リスト内の記者やテレビディレクターとの定期的な情報交換によって、コミュニケーションの質を高めることも意識します。
メディアリストのデメリット
メディアリストを作成するには、自社の業界や商品に関心を示しそうなメディア関係者を探し出して、まとめます。単にメディア関係者をリストアップすればよいのではなく、関連度が高そうな記者やディレクターだけを抽出します。これまでに取材された記者、紹介してもらった記者など連絡先をまとめます。
これまで取材されたことがなく、送信先をゼロから作成する場合には、新聞やWebメディア、雑誌、テレビなどの担当者を探り当ててコンタクトを取る方法もあります。例えば、新聞やWebメディアの場合には、記者の専門分野が決まっていることが多いため、競合他社が掲載された記事や業界特集記事にある記者の名前を確認するなどの方法でも確認できます。テレビの場合には、エンドロールでディレクターを確認してコンタクトをとるなどの方法があります。ただし、メディア関係者は多忙なため一方的な連絡は非常に敬遠されます。メディア関係者の閑散期と言われるお盆休みや年末年始に連絡する、しつこい連絡は控えるなどの配慮が必要です。
プレスリリースを配信するタイミングは、土日は避けて平日の朝一か夕方に配信するのがよいという全体傾向が明らかになっています。プレスリリース配信の「ValuePress」によると、配信時間・配信曜日には一定のルールがあります。テレビは水曜日、木曜日の朝7時ごろと、夜の18時~20時ごろに閲覧数が増加し、新聞は火曜日、木曜日、金曜日の夕方17時ごろに閲覧数が増加する傾向があります。
出典:ValuePress調査『プレスリリースの効果的なタイミング(曜日・時間)』
配信タイミングは、リリースの内容によっても異なります。例えばイベントや講座の場合には、記事化されるタイミングを見越して、曜日は関係なく、あえて開始前日に打つ場合もあります。ターゲットによっては配信タイミングを朝の通勤時間の時間帯に設定するケースもあります。
「プレスリリースをいつ出すのが効果的か」という問題は、多くの企業で模索されています。それぞれのプレスリリースの特性ごとに、どの曜日・時間帯に取り上げられるのがよいのか、何日前に出すのがよいのかのデータやノウハウを蓄積しておいて検討を重ねます。
プレスリリースを出して取材依頼が来たら、取材日時の調整や取材を受ける担当者をアサインします。ただし取材を受けたからといって記事になるとは限りません。取材前には、「どのような内容が期待されているのか」「それに対して自社がどのようにアピールできるのか」を言語化して、記者が求めるイメージに沿うように対応します。やりとりの際はこまめな連絡を欠かさず、スピーディに対応します。
取材時には、原稿や内容の確認は行えない前提で回答します。一部分だけ切り取られても問題がないような発言を心がけます。原稿や内容の事前チェックをしつこく依頼したり、原稿チェックの際に好みで赤入れしたりすることは嫌がられます。記者の仕事は一営利企業の都合に偏った報道ではなく、客観的な情報を発信することです。「プレスリリース=宣伝」という意識は持たないようにしましょう。事前に内容が確認できる場合にも、最低限の事実確認(ファクトチェック)のみにします。
プレスリリースの効果を測定するには、媒体掲載数・広告換算費・SNSでの波及数などの数値を蓄積して比較します。数値化しておくことで、リリースを出して本当に効果があったかどうかが、月次・年次などの時系列で確認できます。どのような分野のリリースやプロモーションが効果的だったのか、逆にどのようなリリースは反響がなかったのかを分析することで、方向転換や内容の改善につなげることが重要です。
データを客観的に「見える化」しておくことは、経営者や関係者に「広報部門は何をしているのかよくわからない」と言われないための手段としても有効です。メディア掲載数だけが広報活動の成果ではありませんが、社内の理解を促進し、活動を行いやすくするという視点では数値分析が必要です。アナリティクスの観点を持ち、例えば、重要メディア掲載数(ゴール)だけではなく、小規模メディアへの掲載やSNSでの波及数(パス)なども評価することが、知見やノウハウの蓄積につながります。
プレスリリースの効果測定の方法
企業規模が大きくなると、効果測定のための数値を収集するだけでもかなりの時間がかかるため、専用の分析ツールを使用する場合があります。これらのツールを使うにはコストがかかりますが、数値を効果的に収集できたり、他社情報を網羅的に確認できたりする点はメリットです。
PR効果測定ツールで有名なものには、PR Analyzer、Webクリッピングがあります。いずれもコストがかかりますが、配信数やメディア掲載が毎月数十を超えるような企業の場合には、検討の余地があります。
広報におけるKPIの定め方は企業によって異なり、リリース発行数、いいね数、掲載数などの具体的な数値を設定する場合もあれば、全体を俯瞰した数値を設定する場合もあります。全体を俯瞰したKPIの一例として、レバレジーズ株式会社のパブリシティスコアがあります。パブリシティスコアとは、掲載されたメディアや内容を定性定量の両面からスコア化した数値です。全体をポイント化することでチームで目標を共有化しやすい、経年の変化が確認しやすいというメリットがあります。
参考:レバレジーズ株式会社 【広報/公開用】パブリシティスコア - Google スプレッドシート
事業規模が小さい企業の場合には、媒体の規模にかかわらず取り上げられること自体を評価すべきです。大企業の場合には、すでにメディア担当者との継続的な関係性ができていたり、実績や社会的信頼性があったりすることから、多くのプレスリリースを出し、それが掲載されるというフローが出来上がっているケースも多く見られます。しかし小規模な会社の場合には、企業自体の知名度が低く、メディアとの関係性も信頼性も築けていません。そのため、まずは小さな媒体から実績を積み上げ、テレビや新聞への掲載を目指します。
例えば、スタートアップなどのベンチャー広報では、まずは本数、大小問わずメディアに取り上げられた数をKPIにする方法があります。小さな企業がプレスリリースを出す際には、製品やサービスの社会的意義をわかりやすい形で発信し続けることが大切です。大企業などでは年間数百本のプレスリリースを出している企業もあるほどです。意味のないものを出す必要はありませんが、製品のメリットを定期的に発信する体制や蓄積したノウハウはベンチャーにとっての資産となります。
良いプレスリリースの例としては、株式会社ヤッホーブルーイングやガリガリ君で有名な株式会社赤城乳業のプレスリリースの事例が知られています。インパクトがあるプレスリリースの事例は参考になります。よいプレスリリースは、1枚で簡潔しており、ビジュアルやデータが効果的に使われています。さまざまな企業のプレスリリースを参考に、よい部分をまねてみることも一つの方法です。
プレスリリースとニュースリリース(ニュースレター)の違いは、プレスリリースとニュースリリースの概念の違いにあります。プレスリリースがマスメディアに宣伝してもらうことを目的とした従来型の発信を意識した概念なのに対して、ニュースリリースはもっと広く、自社サイト・SNSまで活用した社会全体への発信を意識した概念です。
プレスリリースもニュースリリースも、企業の情報発信である点では変わりませんが、プレスリリースはより露骨に「マスメディアに取り上げられること」が狙いです。それに対してニュースリリースは、マスメディアに対してだけではなく株主や消費者に向けた公式発信であるため、最近はプレスリリースよりもニュースリリースという言葉のほうが時代に合っているという見方もあります。しかし一般的にはプレスリリースという表現のほうが圧倒的に知名度が高く、プレスリリースとニュースリリースはだいたい似たことを意味すると覚えておいて差し支えありません。
プレスリリースとは何で、どんな意味を持つのかを理解して活用することは、企業価値自体の向上につながります。メディアに取り上げられるプレスリリースを書き、取材や掲載につなげることで、組織のモチベーションアップや採用促進につながるためです。そのためには、広報担当者自身が、ネタ探しのコツをつかみ、企業独自の強みを伝えていくことが大切です。
プレスリリースの書き方では、「社会とどのようなインパクトを与えるか」という観点が欠かせません。一方で、会社の公式情報として出すため「正しい情報をわかりやすく書く」というスキルも必要です。単純な日本語の誤りや著作権違反、情報不足は企業の信頼に直結します。基本をおさえながら、クリアでシンプルな情報を出すことが重要です。
最近は配信代行サービスやPR分析ツールを使って、効果的にPRすることを経営戦略に据える企業や団体も増えてきました。さまざまなツールを活用することで、今後のPRの形はより進歩していくのではないでしょうか。
この記事が、より素晴らしい製品が世の中に取り上げられるきっかけとなれば幸いです。
参考文献
井上岳久『実践! プレスリリース道場 完全版』
野澤 直人『【小さな会社】逆襲の広報PR術』
井上岳久『最強のビジネス文書 リリースの書き方・使い方』
PR TIMES 企業向け管理マニュアル
株式会社Remedies 執行役員CXO。欧米学問のテクニカルライティングに基づいた執筆技法で、プロダクトライティングや、専門性が高い記事の執筆を行う。PR会社、ソフトウェアメーカー、スタートアップの立ち上げを経て、Remediesを起業。wordrabbitで執筆した記事は累計700万PVを超える。