コピーライティングの効果を高める「省略法」とは

「省略法」とは、文法上、必要な要素をカットすることを意味します。たとえば体言止めを用いて「ついに北海道へ拡大(します)」としたり、述語を省略して「世界中のあらゆる不動産を(仲介します)」としたりするなどです。日本語の日常会話では多くのシーンで「醤油(とって)」「(私は)行く」といった言葉の省略が見られます。同様に、文章でも頻繁に主語助詞が省略されます。

省略法が用いられているコピーライティングの例

  • ついに北海道へ拡大(します)
  • 世界中のあらゆる不動産を(仲介します) 前者の例では文末の助動詞が省略されており、後者の例では述語ごと省略されている。

省略法の効果

省略法を適切に用いることによって、余韻を持たせ、意図した印象を強く与えることができます。これは感覚的な話ではなく、古くからヨーロッパで研究されてきた学問によって裏付けられた技法であるレトリックによる効果を狙ったものです。レトリックは、人を説得し行動に結びつけるための説得術として研究されてきました。体言止め・倒置法・比喩というとイメージしやすいかもしれません。人を言葉で説き伏せ、納得してもらうために体系化され、2500年の歴史を持ちます。日本でレトリックというと、和歌などの文学的な方面で用いられてきたため、文学的な表現美のイメージを持つことが多いかもしれません。実質的というよりは装飾的だとも言われます。しかし本来のレトリックは、人に適切に意味を伝え、説得するための技術的な手法です。レトリックにおいて、省略法は「文章の無駄を省き、文章を引き締めて余剰・余韻をねらう」技法として存在しています。
[*出典:レトリック辞典「省略法」]

しかし効果や意図を明確に意識せずに、文字数を削る目的や、かっこよさや美しさを全面に出す目的だけで省略法を用いているコピーは決して珍しくありません。有名なWebサイトや広告であっても、そういったコピーは存在します。ただしそういったコピーは、概ね説得力に欠け、効果を発揮しません。コピーライティングにおいては、内容がもっとも重要であることは言うまでもありませんが、内容だけでは不十分です。人を説得するところまで到達して、はじめてコピーの効果が出たと言えるのです。

省略法を用いる際に重要なポイント

コピーライティングで省略法を使う際には、重要な箇所を省かない、または省く場合には意図的に省くことが大切です。実際に、重要な箇所を欠いたコピーは頻繁に見られます。たとえば「あなたはついに」はエモーショナルではありますが、何が言いたいのか理解できません。「あなたはついに無料で月に行ける」まで言わなくてはユーザーに伝わりません。また「これからはSuicaも」ではSuicaが使えるのか、チャージできるのか、何なのかを読み手が推察する必要があります。場合によっては「使えなくなります」と誤読することもあります。「これからはSuicaも使えます」と述べてはじめて意図が通じるのです。

文の中で特に重要な箇所とは、主語述語です。日本語における主語(何が)と述語(どうした)は、文を成立させるための骨格です。主語(主題)は内容を理解しメンタルモデルを構築する役割を、述語はその主語を説明する役割を担います。主語と述語以外の修飾語や接続語は、他の言葉に意味を加えたり、文と文とをつなぐ役割を果たします。そのためこれらが省かれても文の意味は通じますが、主語や述語が省かれると、読者に誤解を与えたり意味自体が通じなくなったりするのです。

省略法の種類

コピーライティングにおける省略法には、助動詞を省略するタイプと、述語を省略するタイプがあります。

タイプ1 助動詞の省略

述語の中にある助動詞を省略します。「です」「しています」「します」などのワードを省くことで、名詞副詞形容詞で文章を止めます。体言止めもこの一部です。文章で一番言いたいキーワードを最後に持ってくることで、ユーザーの頭にダイレクトに意図した印象を残すことができます。

「最先端医療で使われるレベルの光ファイバー」

「クロームモリブデン鋼。どんな自転車よりも頑丈」

「茶の湯プランが新登場」

「すべてがピッタリと」

「何人でも、招待可能」

「全自動ですべてのサービスに、高セキュリティを適用」

「デジタルで時空間の同一化を実現」

「本質的で画期的なスピーチをご用意」

良い例では、文末に重要な情報を配置することで、その言葉を意図的に読み手に印象付けています。一方、悪い例では、強調する必要がない情報を文末に配置したうえで省略を行っています

ただし、文末の助動詞を一律に省略すればよいかというと、そういうわけではありません。文に丁寧なトーンを残したい場合に省略してしまうと、カジュアルな印象を与えます。コピーの内容や、他の文章とのバランスをあわせて、省略するかどうかを決定します。

「セキュリティはISO27001水準に対応しています」

「対応」で止めてしまっても問題はありませんが、内容がセキュリティであることから、丁寧なトーンを残すために文末をそのまま残す方法もあります。

タイプ2 述語の省略

文末にある述語自体を省略します。述語を省いたあとに残る文末には、意図的に印象に残したいキーワードを配置します。ユーザーのペルソナの選択肢がたくさんあるような場面で述語を省略することで、ユーザーの想像力を高め、イメージを膨らませる効果を発揮します。

「どんな出会いも、人生のワンシーンに」

「心を動かす撮影を」

「マッチングサイト作成のすべてを、1つの場所で」

「確定申告と年末調整を、より良い方法で」

良い例では、述語(なります、できます、簡単にできます、しようなど)が省略されています。異なる立場の読み手が、このコピーを見ることによって、先に続く言葉を読み手の想像力に任せることができます。たとえば10代女性の場合には、「心を動かす撮影をすることで、今まで以上にかわいい動画が作れる」と読み取るかもしれません。30代男性の場合には「心を動かす撮影をすることで、子供の動画を簡単に作れる」と読み取るかもしれません。

一方、悪い例では、述語が省略されていますが、述語を隠すことによって読み手が想像するというメリットはさほど感じられません。また、文末に重要なキーワードが配置されているわけでもありません。述語を省略することで、かえって曖昧さや自信のなさが表現されてしまいます。

適切な場面で省略法を使用することで効果が出る

コピーライティングで頻繁に目にする技法である省略法は、適切に使いこなすことで、ユーザーに強い印象を残すことができます。一方でうまく使いこなせないと、曖昧さを際立たせることになります。コピーライティングで最も重要なのは訴求ポイント自体であることは、言うまでもありません。抽象度の高い言葉を使わないようにしたり、句読点の打ち方に配慮したりすることは重要です。このような基本を理解したうえで、さらにコピーライティングの効果を高めるために意識すべきなのが文末です。

省略法の扱い方を理解することで、「ああ、なるほど」とユーザーの腑に落とし、納得してもらうことにつながります。競合が強くても、多勢に無勢でも、言葉で勝つ方法を一つ身に着けることができるでしょう。

参考文献
野内良三『日本語修辞辞典』
瀬戸賢一『日本語のレトリック』
ジョン・ケープルズ『ザ・コピーライティング』