業務を開始する前に契約書を交わす

フリーランスで働くライターは、業務を開始する前に依頼主と業務委託契約書を交わしたり、契約内容が記載された注文書を受け取ったりする必要があります。契約書を結ばないまま業務をスタートすることで、「聞いていた業務内容より多い・報酬が思っていた額より少ない・報酬が払われない」などのトラブルが発生した際に、言った言わないの話になりがちです。

出版・編集業界では慣習として、契約書を結ばないまま業務を行うこともあります。一方で他の業界では、発注前には契約書を結ぶのが一般的です。井の中の蛙にならないためにも、業務をスタートする前には、ライターから「契約書はどうしますか?」と確認することが大切です。

業務委託契約書とは

業務委託契約書とは、クライアント企業(依頼主)から業務を引き受ける時に結ぶ契約書のことです。記載内容としては、業務内容や報酬などの条件に関する内容などが挙げられます。

業務委託契約書イメージ

業務委託契約書に記載する内容は、法律で定められているものではありません。多くの場合、依頼主が契約書を準備して双方で内容を確認します。そのため契約を交わす際には、重すぎる責任内容になっていないか、トラブルがあった際に対処できそうか、などを確認してから契約書を結びます。

契約書を結ぶうえで注意する内容の一例

  • 業務内容に誤りはないか
  • 責任が重すぎないか
  • 報酬の額や支払い方法は適切か
  • 著作権などの著作物に関する権利は納得できる内容か
  • 不安な点があれば必ず専門家に相談する

ライターの業務委託契約書に記載する内容

ライターが依頼主と結ぶ業務委託契約書には、次のような内容を記載します。

内容は例です。契約書を結ぶ際には必ず、弁護士等、専門家の指示を仰いでください。

契約書に記載する内容の例

1. 目的・業務内容

契約のはじめに目的や業務内容、業務の範囲、仕様を定めます。業務内容や記事数が毎月変更となるような場合には、業務委託契約書を、業務委託基本契約書と個別契約書の2つに分けて結ぶこともあります。修正回数・程度、文字数の幅、打合せの回数・場所などトラブルになりそうなことは盛り込んでおきましょう。


第●条 目的・業務内容
本契約は、甲の乙に対する業務委託に関する基本的事項を定めたものであり、甲は乙に対し、次の各号に定める業務を委嘱し、乙はこれを受託する。
1. 自社メディアにおける記事ライティング
2. 記事のコンテンツ企画

2. 報酬・支払い

報酬額が毎回同じな場合には、業務委託契約書の中に金額を記載します。各契約ごとに異なる場合には、個別契約書に書いたほうが負担が少なくて済みます。

金額については、源泉徴収前の金額なのか源泉徴収後の金額なのかを決めておくとよいでしょう。支払い方法は、翌月末払いか翌々月末払いがよくあるケースです。下請法では「納品から60日以内に支払いをする」よう定められています。振込手数料の記載があるかもチェックしておきましょう。


第●条 報酬および支払い
1. 甲は乙に対し、本業務の対価として、1記事あたり●●円(消費税別)を支払う。
2. 甲は、前項に定める委託料を納品後翌月末日までに、乙の指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。振込手数料は甲の負担とする。

3. 契約期間・納期・納品方法

契約期間を明記します。納期が設定されている場合には納期も記載しますが、記事ごとに異なる場合には個別契約書に書きます。納品方法も記載しましょう。トラブルになりそうな、検収期間をどのくらいに設定するかも記載しておけるとよいでしょう。


第●条 契約期間
契約期間は、平成●年●月●日から平成●年●月●日までとする。

4. 再委託

ライターが再委託(依頼主から請けた案件をさらに別のライターに委託すること)を行う場合に注意することを定めます。再委託を行なってはならない場合にはその旨を記載します。


第●条 再委託
乙は、本業務を第三者に再委託してはならない。但し、甲が承諾したときは、その限りではない。

5. 瑕疵担保

瑕疵担保(読み方:かしたんぽ)とは、検収後に見つかった、思いもよらない欠陥やバグのことを言います。業務委託契約書では、この瑕疵が見つかった場合にどのくらいの期間対応するかを定めます。民法改正で、瑕疵が見つかったときから1年間は瑕疵担保を行う必要がありますが、法的効力はさておき、業務委託契約書でも瑕疵担保期間を定めることがあります。


第●条 瑕疵担保
前条に基づく納品物の検収完了日から 3ヶ月以内に瑕疵が発見された場合、乙は当該瑕疵の補修・追完を無償で行うものとする。

6. 知的財産権

知的財産権とは、文章や著作物を含む知的活動によって生み出されたものに関する権利です。ライターかクライアントのどちらに知的財産権があるかはケースバイケースです。


第●条 知的財産権
委託業務の遂行にあたり、乙が甲に納入した納品物の知的財産権に関する一切の権利は、期間及び地域の制限なく独占的に、納入と同時にすべて乙から甲に譲渡されたものとする。

7. 著作権

著作権とは、著作者が著作物を財産として保有する権利のことを言います。ライターの場合には、著作権は依頼者であるクライアント企業に譲渡するケースが多くなります。

譲渡できるのは、著作財産権のみで著作者人格権は譲渡できません。著作権について詳細は著作権情報センターをご確認ください。

自分が書いた記事や本の権利がどのようになるのかを理解しておきます。不明点があれば、必ず弁護士などの専門家に確認しましょう。


第●条 著作権
乙が甲に納入した納品物に関する著作権は、期間及び地域の制限なく独占的に、納入と同時にすべて乙から甲に譲渡されたものとする。著作物の著作財産権は甲が保有し、乙は著作人格権を行使しないものとする。甲は、納品物の全部、または、一部を利用した一次使用・二次使用等において、期間及び地域の制限なく、独占的に使用・許諾・譲渡することができる。

8. 秘密保持(機密保持)

秘密保持契約は「NDA」とも呼ばれ、業務で知り得た情報を公表せず、秘密を守ることを約束する契約のことを指します。秘密保持契約書だけでもボリュームがあるため、業務委託契約書とは別に結ぶケースが多くみられます。ライターの場合、業務委託契約書を結ばずに秘密保持契約だけを別途結ぶようなケースもあるようですが、秘密保持契約はあくまで「お互いに秘密を守りましょう」という内容なので、これだけでは契約内容としては不十分だと言えます。


第●条 秘密保持
本契約の定めのほか、別途締結する秘密保持契約の定めを遵守しなければならない。

上記の例は、業務委託契約書とは別に秘密保持契約書を結んだ場合に業務委託契約書に記載する文章の例となります。

9. 解除

契約書の中で、契約の解除に関する定めを行います。依頼主の会社が破産した場合や、連絡がとれなくなった場合、重大な過失があった場合などの内容が記載されています。


第●条 契約の解除
甲または乙が次の各号のいずれかに該当したときは、相手方は直ちに本契約を解除することができる。
1. 本契約または個別契約を維持しがたい重大な事由または契約違反があったとき
……

その他の契約事項

上記以外に、損害賠償、禁止事項、裁判管轄、反社会的勢力の排除、不可抗力及び非常事態における措置などについて、業務委託契約書に記載するケースが多くあります。それぞれについて簡単に説明します。

損害賠償

甲または乙が相手の行なったことで損害を被った場合には、相手方に対して損害賠償を請求することができることを記す内容です。

禁止事項

お互いの名誉を既存してはならない、などの禁止事項を記す内容です。

裁判管轄

万が一訴訟になってしまった場合に管轄する裁判所です。東京の会社であれば「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」と書いてあることが多いです。万が一の裁判の場合は出向く必要があるので、遠方すぎる場合は交渉を検討しましょう。

反社会的勢力の排除

お互いに暴力団、暴力団員、政治活動団体との関係が一切ないことを記す内容です。

ライターと企業の契約書の結び方・流れ

ライターと企業が契約書を結ぶ際には、以下のような流れになります。

契約書を結ぶ流れ

ライターが契約書を結ぶ時の流れ

  • 企業側が契約書を用意する(ライターが用意する場合もあり)
  • ライターが内容を確認する
  • 修正依頼がある場合には、修正案を具体的に提示する
  • 合意したら企業が契約書を2通製本して押印する
  • ライターも契約書に押印する
  • 押印済みの契約書をそれぞれ1通ずつ保管する

最近は、紙の契約書ではなくクラウドサインで契約を行う場合もあります。クラウドサインの場合は、Web上で簡単に手続きが行えて便利です。

請負契約の場合は印紙が必要

契約には、請負契約(うけおいけいやく)と委任契約(いにんけいやく)の2種類があります。請負契約のほうが責任が重いのが特徴です。

請負契約は仕事の完成を目的とした契約方法です。注文者のクライアント企業が、成果物に了承して受領することで、ライターは報酬を受け取ることができます。委任契約は事務の処理を目的とした契約方法です。事務の処理が行われれば、成果にかかわらず報酬を受け取ることができます。フリーランスのライターの業務の中でよくみられるのは、成果物を納品して報酬を受け取る請負契約です。

契約の途中解除は簡単に行えるのか

発注者であるクライアント都合での解除は、「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。」と定められています。(民法第641条)。不要になった仕事を続けさせる必要はないからです。

つまり、クライアントは損害を賠償すれば理由なく契約の解除を行うことができます。例えば、解除の時点で依頼された記事の7割が完成していたらその費用を支払う、のような賠償を行うことで解除が行えます。損害賠償の方法や金額は契約書に記載がある場合には、基本的に契約書の内容が正となるため、契約書の確認が必要です。

ただし、請負人であるライター都合による解除は原則行うことができません。注文者であるクライアントが破産した時などにはライター都合で契約を解除することができる場合があります。

下請法の知識も大切

ライターには下請法の知識も大切です。下請法は資本金1000万円以上のクライアントが対象となる法律で、例えば「クライアントは契約開始時に、契約書を結ばないといけない」「支払いは、納品があってから60日以内に行わなくてはならない」「契約を超えたやり直し・修正は費用が発生する
」といった内容が決められています。

まとめ

ライターが業務を開始する際には、業務委託契約書や秘密保持契約書などを結んで仕事をすることが大切です。トラブルを未然に防いでくれたり、いざという時にトラブルから身を守ってくれたりするからです。支払い、納期など、重要な内容も記載されているため、交わす前には必ずしっかりと確認します。不安があれば、法律の専門家に確認して疑問を解消したうえで結ぶようにしましょう。

※文面の無断転用はお控えください。例文の内容については一切の責任を負いません。実際の契約、契約書作成などについては専門家にご相談ください。