能動態・受動態を使い分ける
能動態と受動態は意識して使い分けます。能動態は、読み手に対して明確で説得力がある印象を与えられます。一方で受動態は、曖昧で弱まった印象を与えることができます。どのような印象を与えたいか、状況によりどちらがよりわかりやすく伝わるかを判断しながら使い分けます。
原則は能動態で文を書く
明確な文章を書くには、意識して能動態で文を書きます。能動態を使うことで、文章が明確になり、文章の説得力が増します。ニューヨーク市立大学リーマン校の教授であったチッヒー氏は「ライティングの専門家は、圧倒的に能動態を好む。なぜなら能動態は直接的で、明確で、自然であるからである。受動態の過度の使用は、文体を弱くし、責任を曖昧にする」と指摘しています[*出典1]。
特定の状況では受動態で文を書く
全ての文章を能動態で書くのではなく、特定の場合には、受動態で書いた方がわかりやすくなります。以下の5つのケースでは意識して受動態を使います[*出典2]。
受動態を使ったほうがよい場合
- 誰が行なっているかが重要ではない場合・公の場合
- 動作を受ける対象を強調したい場合
- 能動態の主語に続けて、主語の省略をして受動態をつくる場合
- 文体をあえて弱くしたい場合
- 能動態が連続する場合
1. 誰が行なっているかが重要ではない場合・公の場合
動作主が重要でない場合や公の場合には、受動態を使用します。
国民はその行為は犯罪と考える。
その行為は犯罪と考えられる。
動作主となる国民は公の存在のため、受動態を使用します。
2. 動作を受ける対象を強調したい場合
動作を受ける対象を強調したい場合、たとえば被害を受けた場合には受動態が有効です。以下の例では、腕時計という動作対象を「壊された」ことが強調されています。
昨日やっとの思いで腕時計を買い換えた。弟がそれを壊した。
昨日やっとの思いで腕時計を買い換えた。弟にそれを壊された。
受動態にすることで、壊されたのは「腕時計」であると強調しています。
3. 能動態の主語に続けて、主語を省略して受動態をつくる場合
能動態の文章に続けて、主語を省略した文章を組み合わせたい場合には受動態を使用します。以下の例では「弟がそれを壊した」という文を受動態で連続させています。
昨日やっとの思いで腕時計を買い換えた。弟がそれを壊した。
昨日やっとの思いで腕時計を買い換えたが弟に今日壊された。
主語は自分のまま、文を一つで表す場合に受動態を使っています。
4. 文体をあえて弱くしたい場合
主張を弱めたい場合には受動態を使用します。能動態と比較すると、受動態は主張を弱める効果があります。以下の例では「されるべき」だとすることで文体が曖昧になり、勢いを弱めることができます。
解決すべきだ
解決されるべきだ
受動態にすることで、文体が弱まっています。
5. 能動態が連続する場合
能動態の文章が何度も続く場合には、文章の単調さを回避するために受動態を交えます。同じ語尾が連続すると、リズムが悪くなり文章の読みにくさにつながるためです。受動態を織り交ぜることでテンポよく文章を組み立てることができます。
[出典]
1. H.J.Tichy『Effective Writing for Engineers, Managers, Scientists Second Edition』John Wiley & Sons, Inc、1988
2. メアリ・K・マカスキル『NASAに学ぶ英語論文・レポートの書き方 NASA SP-7084 テクニカルライティング』片岡英樹 (訳)、共立出版、2012