約物の表記ルールを理解する(約物の意味とは)
文章で使う約物には国や業界で定められた規準があります。約物とは、句読点・疑問符・括弧・アクセントなどの「記号」を意味します(読み方:やくもの、役物とも書く)。書籍、雑誌記事、ウェブサイト、ビジネスシーンなどで約物を使う際には、約物の正しい使い方を把握しておくことが必要です。
このガイドでは、約物の公式規準として、文部省が定めた『くぎり符号の使ひ方』を採用し、そこに出版業界の『日本語表記ルールブック(第2版)』と、製造業の『日本語スタイルガイド(第3版)』の観点を加えて、12の表記ルールとしてまとめます。
約物の表記ルール
- 句点(。)の表記ルール
- 読点(、)の表記ルール
- ダッシュ記号(—)の表記ルール
- 省略符(……)の表記ルール
- 波ダッシュ(〜)の表記ルール
- 丸括弧の表記ルール
- カギ括弧の表記ルール
- 二重カギカッコの表記ルール
- 疑問符(?)の表記ルール
- 感嘆符(!)の表記ルール
- 数値の表記ルール
- ピリオド(.)の表記ルール
1. 句点(。)の表記ルール
句点(。)は、文の終わりに打ちます。ただし、カギ括弧・丸括弧の終わりや、タイトルの文末などでは句点を打たなくてもよい場合もあります。
夏が来た。
句点がカギ括弧内の終わりにある場合
句点がカギ括弧の終わりにある場合の対応は、媒体によって異なります。出版業界などでは句点を打ちませんが、国語教科書などは、文が完結している場合にはカギ括弧の中に句点を打ちます。いずれも文法上の誤りではありません。
彼は「おはよう」といった(出版業界)
彼は「おはよう。」といった(国語教科書)
文末に丸括弧がある場合
文末で丸括弧が間にある場合の句点の箇所は、その丸括弧が直前の言葉を補足するのか、文全体を補足するのかで変わります。丸括弧が直前の言葉を補足する場合には、丸括弧の外に句点を打ちますが、文全体にかかる場合には丸括弧の中に句点を打ちます。
今日は歩いて出かけた(兄と)。
今日は歩いて出かけた。(昨日は走って出かけた。)
丸括弧全体の中に文が入る場合
丸括弧全体の中に文が入る場合には、丸括弧の中の文に句点を打ちます。
今年の生産量は10tだった。(昨年は8tだった。)
単文で作られる見出しやタイトルの場合
単文で作られる見出しやタイトルの場合には句点は必要ありません。タイトルが複数の文に渡る場合、途中の文には句点をつけます。
「日経平均反発、終値32円高の2万3278円」
「東大生の挑戦。CO2回収で温暖化防止へ」
【補足】句読点を連続させて曖昧さを表現する方法
句読点を連続させて曖昧さを表現する方法は、書き言葉では使用しません。省略を表現したい場合には、三点リーダー(…)で表記します。
どうしてだろう。。
どうしてだろう……
2. 読点(、)の表記ルール
読点は、意味の分離を行って誤読を避けるために打ちます。どのように使用するかは、原則書き手の自由に任されます。ただし、読点を多く使いすぎると文が読みにくくなるため、原則は、文部科学省から発表されている指針に基づいて使用します。文部科学省から発表されているのは、以下のように、文を区切る場所、言葉を修飾する語句を分離する箇所に使う方法です。
文を区切る箇所で使う
読点は、文を区切る箇所で打ちます。複数の文を一文にまとめる際には、読点を打つことで文と文とを分離します。
母も喜び、父も喜んだ。
言葉を修飾する語句を分離する箇所で使う
読点は、言葉を修飾する語句を分離する箇所に打ち、その上で不要な箇所を削除します。言葉を修飾する語句とは、形容詞、副詞、接続詞、副詞、感嘆文などの、名詞や動詞を補足する語句のことです。不要な箇所を削除する際には「口調の観点で削除」します。つまり、会話で話す時に不自然になる箇所の読点は省略するということです。
昨夜、帰宅以来、お尋ねの件について当時の日誌を調べて見ましたところ、やはりそのとき申し上げた通りでありました。
口調の観点から、「やはり」と「そのとき」の間の「、」を省略しています。
読み誤りが起きそうな箇所で使う
読点は、読み誤りが起きそうな場合に意味の分離をするため打ちます。たとえば、以下のように、長い主語を明確にしたり、修飾関係を明確にしたり、語句の連続を区別したりする箇所で使います。
新刊の爆発的な売れ行きでお茶の間の話題となった緑川さんだが、
新刊の、爆発的な売れ行きでお茶の間の話題となった、緑川さんだが、
主語の「緑川さん」と、それにかかる「新刊の、爆発的な売れ行きでお茶の間の話題となった」を読点で分離しています。
北島さんと友達の姫川さんがついに走り始めた。(読点がないため、北島さんが走ったのか、姫川さんが走ったのかが判断できません)
北島さんと、友達の姫川さんがついに走り始めた。(走り始めたのは北島さんと姫川さんの2人だと判断できます)
北島さんと友達の姫川さんが、ついに走り始めた。(走り始めたのは姫川さん1人だけだと判断できます)
ここではきものを脱いでください。
ここで、はきものを脱いでください。
「ここで」と「はきもの」との2つのひらがなを読点を使って分離しています。
山も川も谷も全てが美しい。
山も、川も、谷も全てが美しい。
「山・川・谷」という名詞がいくつも続けて書かれているものを、読点を使って分離しています。
間(ま)を表す箇所で使う
読点は、文章を口に出して読む際の間(ま)を表す箇所で打ちます。
当時の委員長、速水さんが言った。
3. ダッシュ記号(—)の表記ルール
ダッシュ記号「—」は、分離や連続を表現するために使う記号のことを言います。ダッシュ記号を使う際は、1つで使う場合と、2つ連続させて使う場合があります。1つと2つでは意味が異なるため、独自に個数は変えません。ダッシュ記号を使用するケースとしては、サブタイトルを表す場合や、話題を変える場合など、以下の6つがあります。
サブタイトルを表す
サブタイトルをあらわすには、ダッシュ記号1つを両側にはさんで使います。
基礎日本語文法—改訂版—(ダッシュ記号1つ)
話題を変えることを表す
話題を変えることをあらわすには、ダッシュ記号2つを分離する箇所に入れて使います。
「それはね、——いや、もう止しましょう」
余韻を持たせる
余韻を持たせるには、文末をダッシュ記号2つで終わらせます。
「まあ、かわいそうに——。」
カギ括弧で囲むほどではない語句を分離する
カギ括弧で囲むほどではない語句を分離する際や、インタビュー記事などで聞き手と話し手とを区別する際に、聞き手の発言の冒頭にダッシュ記号2つをつけます。
これではならない——といって彼が起き上がった
—— それでは、これまでの経緯をご説明いただけますでしょうか。
時間的、空間的な経過を表す
近年、あまり使われない表現ですが、時間的、空間的な経過を表すには、ダッシュ記号2つを使って表現します。
5分——10分——15分
電車が、静岡——浜松——名古屋と進んでいった
「〜から〜まで」という範囲を表す
「〜から〜まで」という範囲を表すには、ダッシュ記号1つを使って、「〜から〜まで」という範囲を表現します。出版業界の場合、この用例では全角ダッシュを用いず半角ダッシュを使います。波ダッシュ(〜)で代用表記するケースも多くみられます。
3—5週(「3–5週」、「3〜5週」も可)
東京—大阪(「東京〜大阪」も可)
4. 省略符(……)の表記ルール
省略符(……)は省略をあらわす記号で、三点リーダを2つ組み合わせて表記します。日本語の「食べ過ぎてしまった・・・」などの「中黒3つ」の表現は、公式文章では正しい日本語表記として扱われません。
どうしたらいいのか・・・
どうしたらいいのか……
5. 波ダッシュ(〜)の表記ルール
波ダッシュは、範囲をあらわす記号です。以下のように、「〜から〜まで」などの範囲や、語句の省略の意味で三点リーダーを代用する際に使います。
範囲を表す
波ダッシュは、数字などの範囲を表すために使用します。
1〜3日(「1—3日」も可)
注意点として、以下のように、数値と数値・名詞と名詞をつなぎます。
当日〜3日まで
1〜3日まで
数値と数値、名詞と名詞をつなぎます。
1000円〜予約できます。
1000円から予約できます。
グラフ表記などで「1000円〜」と単独で使うことはありますが、その後に文が続く場合は「から」と文章にします。
以下のように、範囲の一部を切り出すような表記は、誤読につながりやすいため、推奨されていません。
3000〜10
3000〜3010
数値の一部だけ切り出すような表記は行いません。しかし、西暦で3桁以上が同じ場合は「2001-20年」のように省略表記を行います。
語句の省略を表す(三点リーダーの代用)
波ダッシュは、語句を省略したことを表すために使用します。三点リーダー(…)でも代用できます。
「〜のようだ」「〜より〜まで」(「……のようだ」「……より……まで」も可)
6. 丸括弧の表記ルール
丸括弧()は、前の文や語句に関連するものを、囲い込んで補う際に使用します。差し込む内容は、前の文や語句に関連するものに限られるため、全く関係がない要素を挿入することはできません。
丸括弧の使い方
- 語句を補う際に使用する(例:今日はフルーツ(りんご)を食べた。)
- 文を補う際に使用する(例:今日もフルーツを食べた。(昨日と違ってりんごを食べた。))
丸括弧は、全角でも半角でも問題ありませんが、新聞各社は概ね全角括弧を使用しているため、特別な理由がなければ全角カッコに揃えます。半角括弧を使う場合には、「今日はフルーツ (りんご) を食べた」のように括弧の前後に半角スペースを入れます。
丸括弧の注意点
丸括弧を使用する際には、使いすぎに配慮する必要があります。丸括弧を使うことで、どんな文でも接続関係を考えずに自由に挿入できるため、使いすぎると、とりとめのない文章になってしまいます。なくても意味が通じる丸括弧は、できるだけ使用しないようにしたり、文章の中に入れ込めないかを検討したりします。
雨が降ってきた(今朝の予報に反して)。
今朝の予報に反して雨が降ってきた。
丸括弧の中の内容を、本文に入れ込みます。
今朝のミーティング(週次)で発言があった。
今朝の週次ミーティングで発言があった。
丸括弧の中の内容を、本文に入れ込みます。
7. カギ括弧の表記ルール
カギ括弧(「」)は、分離の意味を表して、発言・引用・まわりの文から分離する際に使用します。
カギ括弧の使い方
- 発言
- 引用
- まわりの文から分離
8. 二重カギカッコの表記ルール
二重カギ括弧(『』)は、カッコの中のカギ括弧や、本・映画などのメディア名を表記する際に使用します。
二重カギ括弧の使い方
- カッコの中のカギ括弧(例:彼は「僕はそう思ったけれど、山田くんが『自分でやる』と言ったんだ」と話した。)
- 本・映画などのメディア名(例:『カッコーの巣の上で』)
9. 疑問符(?)の表記ルール
疑問符(?)は、直接的に疑問文であることを表現したい際に、句点(。)の代わりに使います。疑問符の後には全角スペースを入れます。ただし媒体によっては半角スペースを補うことで統一している媒体もあります。
いかがでしょうか?よろしければフォローしてください。
いかがでしょうか? よろしければフォローしてください。
疑問符(?)の後に全角スペースを入れます。
ただし、タイトルなど文の短さが重要な箇所や、括弧の終わりでは、以下の例のように疑問符の後の後方のスペースを省略する場合があります。
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疑問符(?)の後のスペースを省略しています。
10. 感嘆符(!)の表記ルール
感嘆符(!)は、公式な文章中では原則使用しませんが、使用する場合には疑問符と同じ表記ルールで使用します。基本的には、感嘆符は使用せずに、省いても正確な意味が伝わるように文章を推敲することが大切です。
ドアを閉める際は閉じるボタンを押してください!
11. 数値の表記ルール
数値の表記は、横書き文章の場合には、「半角のアラビア数字」で統一します。ただし「訓読み数字」「順序数」「副詞や形容詞」の場合は漢字を使います。
数値に漢字を使う3つのパターン
- 一つ、二つ(訓読み)
- 一番目、二番目(順序)
- 第一に、二番目に(形容詞)
12. ピリオド(.)の表記ルール
ピリオド(.)は、「小数点」「箇条書きの項目名の後」「セクション番号の後」に使用します。
ピリオドを使う場面
- 小数点(例:0.2)
- 箇条書きの項目名の後(例:1. A 2. B 3. C)
- セクション番号の後(例:1. 本講義の意義)