この記事の目次
「ら抜き言葉」とは可能の意味の「られる」から「ら」が省略された表現です。「ら抜き言葉は間違いではないのではないか」「ビジネスで使って何が悪いのか」「ら抜き言葉が使われていると気になる」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。「ら抜き言葉」はなぜ生まれて、いつから使われているのか。そしてなぜ悪いのかといった内容から、見分け方についても例を交えて分かりやすくご紹介します。
Maki Higashi
株式会社Remedies CEO / UX Writerクライアントに出す資料や、上司に向けたメールなどでうっかり「ら抜き言葉」を使ってしまい、恥ずかしい思いをした経験のある方もいるのではないでしょうか。著者である私自身も、意図せず、上司から指摘を受けたことがあります。
実は「ら抜き言葉」自体は、必ずしも誤用だとは言えないのですが、目上の人との会話やビジネス文書などでは「ら抜き言葉は気持ち悪い」「頭が悪そうに見える」といった否定的な声があるのも事実です。
そこで本記事では、ビジネスパーソンに向けて、「ら抜き言葉」の具体例や見分け方をまとめ、正しく使い分けるためのポイントを分かりやすくご紹介します。
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「ら抜き言葉」とは、可能の意味を持つ「られる」から「ら」が抜けて「食べれる」「考えれる」のようになった表現のことです。本来必要な「ら」が省略されていることから、「ら抜き言葉」と呼ばれています。例えば、「見られる」「来られる」が、ら抜きになると「見れる」「来れる」のように変化します。
「ら抜き言葉」のよくある例としては、「食べれる」「伝えれる」などがあります。本来、可能の意味で使う「られる」のうち「ら」が抜けています。
ビジネスシーンでは、「進めれるようになった」「決めれること」などが一例です。
ら抜き言葉の例 | 例文 |
---|---|
進めれる | プロジェクトを自ら進めれるようになった(正しくは「進められる」 ) |
決めれる | 方向性を決めれることが重要だ(正しくは「決められる」 ) |
伝えれる | 正しく内容を伝えれる(正しくは「伝えられる」 ) |
迎えれる | チームのメンバーとして迎えれることになってうれしいです。(正しくは「迎えられる」 ) |
辞めれる | ついにストレスが多い仕事を辞めれることになった。(正しくは「辞められる」 ) |
載せれる | 自分の写真を簡単に載せれる。(正しくは「載せられる」 ) |
得れる | このコースを受ければ、貴重な知識を得れる。(正しくは「得られる 」) |
日常生活では、「食べれる」「起きれる」などが一例です。日常生活のほうが、ビジネスシーンと比べて、より「ら抜き言葉」を自然に使っている言葉が多いのではないでしょうか。
ら抜き言葉の例 | 例文 |
---|---|
食べれる | このレストランでは、新鮮な魚介類を食べれる。(正しくは「食べられる」) |
起きれる | 疲れていても朝は早く起きれる。(正しくは「起きられる」 ) |
来れる | 友人が週末に私の家に来れると知って、準備を始めた。(正しくは「来られる」 ) |
捨てれる | 不要なものは簡単に捨てれる。(正しくは「捨てられる」 ) |
忘れれる | 過去の悪い記憶は簡単に忘れれる。(正しくは「忘れられる 」) |
得れる | このコースを受ければ、貴重な知識を得れる。(正しくは「得られる 」) |
受けれる | 興味深い講義を受けれるのが、学生生活の魅力の一つだ。(正しくは「受けられる 」) |
開けれる | この袋は簡単に開けれるよ。(正しくは「開けられる 」) |
入れれる | このバッグは大きくて、たくさんの物を入れれる。(正しくは「入れられる」 ) |
覚えれる | この言語学習アプリを使えば、簡単に新しい単語を覚えれる。(正しくは「覚えられる 」) |
付けれる | この本にはフードが付けれる。(正しくは「付けられる 」) |
この「ら抜き言葉」は、文法上は間違いだとされています。実際に、「ら抜き言葉を使って恥ずかしい思いをした」「指摘されて嫌な気持ちになった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、調査結果では、使う人が増加してきており、人々の日常生活に定着していることが分かっています。中には単なる若者言葉だと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、歴史的な背景からは、かなり以前からある言葉であることが明らかになっています。
平成27年の文化庁の調査では、「見られる」「出られる」などの言葉では、「ら抜き言葉」を使う人が、本来の形を使う人の割合を上回って多数派になっています。
文化庁ではこのような調査を定期的に行っており、その結果からも、「見られる」「出られる」といった特定の単語については、「言葉の乱れ」ではなく「変化」としてら抜きが定着しつつあると言えます。
参考文献:文化庁『平成 27 年度「国語に関する世論調査」の結果の概要』
もう1点知っておいていただきたいのが、「ら抜き言葉」の歴史的な背景です。実はその歴史は古く、大正時代にはすでに使われていたという論文もあります。
地域の観点で見ると、100年以上前から中国地方などで方言として使われており、東京で使われるようになったのは関東大震災以降だと言われています。
このような歴史的背景からも、必ずしも誤用だと切り捨てることはできない言葉だということが分かるかと思います。
参考文献
[*出典:近世後期尾張周辺方言におけるラ抜き言葉の成立]
[*出典:ら抜き言葉と〈れれる言葉〉と可能動詞にみられる自発・受身・尊敬の用法について]
「ら抜き言葉」について、さらによく理解するために知っておきたいのが、「さ入れ言葉」や「い抜き言葉」です。これらの言葉は、「ら抜き言葉」とよく比較されるものです。
「さ入れ言葉」とは、使役の意味の助動詞である「せる」を使う場面で、誤って「させる」を使う表現です。不要な「さ」が入っていることから「さ入れ言葉」と呼ばれています。例えば、「読ませる」を「読まさせる」、「書かせる」を「書かさせる」とするような表現です。
「い抜き言葉」とは、補助動詞の「〜ている」から「い」が省略された表現です。必要な「い」が抜けていることから「い抜き言葉」と呼ばれています。例えば、「書いている」を「書いてる」、「歩いていく」を「歩いてく」とするような表現です。
これらの言葉と「ら抜き言葉」との共通点は、日常会話で定着した「くだけた表現」である点です。いずれも、書きことばでは誤用とされることもありますが、会話においては頻繁に使用されています。
「ら抜き言葉」は必ずしも間違いとは言い切れないことをご紹介しました。一方で、ビジネスシーンや教育現場では、「ら抜き言葉」が問題になることが多いため、使うのは避けることをお勧めします。
その理由は、「ら抜き言葉」が使われていると、「間違いではないか」「おかしいのではないか」といったネガティブな意見が出てくる可能性が高くなるためです。
実際に、ら抜き言葉については、例えば以下のように「気持ち悪い」「イライラする」という声も聞かれます。
意見
そのため、特に以下のようなビジネスシーン、教育のシーンでは使わないほうが良いと言えます。
使わない方がよいシーン
一方で、必ずしも誤用だとは言えないため、日常的なカジュアルなシーンでは問題になることは少ないと言えるでしょう。
例えば、以下のようなカジュアルなシーンでは、使っても違和感を持たれるケースはそれほどありません。特に、会話については目上の人やお客様ではない限り、相手が気にすることはそれほどないでしょう。
特に違和感のないシーン
ここまでお伝えしたように、特にビジネスシーンにおいては、「ら抜き言葉」は避けて、より文法的に正しく書いたり、話したりすることが求められます。そこで、「ら抜き言葉」を簡単に見分ける方法をお伝えします。
「ら抜き言葉」を見分けるために活用したいのが、日本語に特化したプロフェッショナル向けの文章校正ツール「wordrabbit(ワードラビット)」です。
これまで、日本語の文法の誤りを見極めるには1語1語、間違いがないのか確認していく必要がありました。しかし、wordrabbitを使うことによって、入力するだけで、誰でも簡単に文法の誤りを検知することができます。
特筆すべきは、wordrbbitは、日本の出版社、企業の広報などで多く活用されている点です。ビジネス文書や、対外的な記事、プレスリリースなど、分かりやすく正確な日本語が求められるシーンで活用されているツールのため、安心して利用することができます。
「ら抜き言葉」などの日本語の文法の誤りを最も簡単に、スピーディに見つけられるのがwordrabbitの特徴です。ビジネスや教育のシーンで、文章をチェックしたり、品質を高めたりするために有効な選択肢だと言えるでしょう。
次に、「ら抜き言葉」の文法的な側面について理解したうえで見分ける方法を解説します。
まず理解したいのが、動詞に可能の意味を付け加えるときには2つの方法があるということです。以下に記載するように、動詞が五段活用のときと、五段活用以外のときでは、可能の意味にする際の方法が異なります。
可能の意味をあらわしたいとき、対象の動詞が五段活用の場合には、可能動詞を使って可能の意味を表します。以下の例のように、可能動詞を使って「〜できる」という意味を表します。五段活用の動詞には助動詞の「られる」は伴いません。
可能動詞 | 例文 |
---|---|
送れる | 大体は時間通りに子どもを学校まで送れる。(「送られる」は誤り) |
書ける | 早く文章が書ける。(「書けられる」は誤り) |
走れる | 彼は足が速く、どんなに速いペースでも走れるのが自慢だ。(「走られる」は誤り) |
話せる | 彼女は数カ国語を話せる才能がある。(「話せられる」は誤り) |
蹴れる | どんな角度からでもボールを正確に蹴れる。(「蹴られる」は誤り) |
行える | このホールでは大規模なコンサートも行えるので、多くの人が利用している。(「行えられる」は誤り) |
眠れる | 工事が終わったのでやっと静かに眠れる。(「眠られる」は誤り) |
潜れる | プロのダイバーなので、深い海にも潜れる。(「潜られる」は誤り) |
振り返れる | 彼女は過去を振り返れる強さを持っている。(「振り返られる」は誤り) |
乗れる | 免許を取ったので、大型バイクにも乗れるようになった。(「乗られる」は誤り) |
可能動詞の形をとっていても、すべて可能動詞とならないこともあります。例えば「見える」という語句は「富士山が見える」のように、可能ではなく、自発的な意味を持って発話している場合には、単なる自動詞として解釈されます。
可能の意味をあらわすとき、対象の動詞が上一段活用や、下一段活用、カ行変格活用の場合には、助動詞の「られる」を伴って可能の意味を表します。
上一段活用とは、後ろに「ない」をつけて未然形の形にした際にイ段で終わる言葉。下一段活用はエ段で終わる言葉です。カ行変格活用の動詞は「来る」だけです。国語文法では、上一段活用、下一段活用の二つに分けて考えますが、日本語文法では、両方をあわせて一段活用と考えます。日本語文法で考えた場合、「一段活用」と「来る」だけが「られる」を伴う言葉であるため、よりシンプルに理解することができます。
例えば以下の例のように、動詞に対して助動詞の「られる」を伴うことで、可能の意味を表すことができます。
活用 | 例 |
---|---|
下一段活用 | 「食べる」→「食べられる」 |
上一段活用 | 「起きる」→「起きられる」 |
カ行変格活用 | 「来る」→「来られる」 |
ここまでにお伝えしたように、可能の意味を伴うには、可能動詞にする方法と、助動詞の「られる」を伴う方法があります。この2つを混同することによって、「ら抜き言葉」が発生することになります。
つまり、文法的には「られる」を伴うべき動詞にもかかわらず、五段活用の可能動詞の感覚で、可能を表現してしまうことで、「ら抜き言葉」が発生するということです。
例えば、「食べられる」の「食べる」は下一段活用の動詞のため、本来は「られる」を伴います。しかし誤って可能動詞の感覚で「れる」をつけてしまうと、「食べれる」というら抜きの形になります。
他にも「られる」と「れる」を誤る理由として、「られる」が持つ、受け身・可能・尊敬の意味を区別しやすくするためだという指摘もあります。例えば「先生が見られる」という文だけを見ると、「見られる」を受け身の意味で使っているのか、それとも可能や尊敬の意味で使っているのかは明瞭ではありません。しかし「先生が見れる」と「ら抜き」にすることによって、可能の意味であることを明確にする意図が影響していると考えられます。
直前の動詞の活用を確認することによって、「れる」と「られる」のどちらをつけて可能の意味にするのかを見分けることができます。
五段活用の動詞の場合には可能動詞を使い、一段活用やカ行変格活用の動詞の場合には「られる」をつけます。上一段活用・下一段活用・カ行変格活用にも関わらず「れる」をつけている場合は「ら抜き言葉」であることが分かります。
Step | 見分け方 |
---|---|
Step 1 | 動詞を未然形の形にする |
Step 2 | 活用形を確認する |
Step 3 | 上一段・下一段に「れる」を付けている場合は「ら抜き言葉」になっている |
例えば、「食べる」を可能の意味にするために、「れる」か「られる」か、どちらが文法的に正しいのかを見分けたい場合には、まずは、「食べる」の活用形を確認します。「食べる」を未然形(〜ないの形)にすると「食べない」となり、下一段活用であることが分かります。そのため「られる」をつけるのが正しい形であることが分かります。
「食べる」を見分けたい場合
もっと簡単に「ら抜き言葉」を見分けるには、AI文章校正ツール「wordrabbit」が役に立ちます。文章を入力するたびに、ら抜き言葉などの文法上のミスを見つけ出して自動的に修正されるため、ビジネス文章の品質を向上させるのに役立ちます。
今回の記事では、「ら抜き言葉」の基本から、例、見分け方、そして社会的な受け止め方までを掘り下げてきました。
言葉は時代と共に進化します。「ら抜き言葉」は、話しことばとしてはカジュアルに使うことができて、「可能」の意味が伝わりやすくなるというメリットもあります。社会に浸透している使い方のため、決して間違いではありません。
一方で、ビジネス向けなどの文章を作成するシーンでは、「誤用」「間違い」という指摘が多く見られるため、文脈に応じた適切な使用が求められると言えます。
今後、「ら抜き言葉」の使われ方は、言語の進化とともに変わっていくでしょう。この変化を受け入れつつ、ビジネス文書や学術的な文章においては、伝統的な言葉遣いの重要性も忘れてはなりません。教育現場やビジネスシーンで、言葉の正確な使い方を身につけることは、コミュニケーションの質を高めるために不可欠ではないでしょうか。
株式会社Remedies CEO。欧米学問のテクニカルライティングに基づいた執筆技法で、プロダクトライティングや、専門性が高い記事の執筆を行う。PR会社、ソフトウェアメーカー、スタートアップの立ち上げを経て、Remediesを起業。wordrabbitで執筆した記事は累計1,000万PVを超える。