はじめに:ビジネス文書での「漢字とひらがなの使い分け」の重要性
漢字とひらがなの使い分けは、読み手にとって分かりやすい文章を書く際に意識したいポイントの一つです。その背景にあるのが常用漢字表です。常用漢字表とは、中学校までに習う漢字を国がまとめた表のことです。常用漢字表にある漢字は、多くの人が教育の過程で学習しているため、より大勢の人が理解できる文字だと言えます。
一方で、常用漢字表にない漢字は、読めない人がいる可能性もあります。そのため、多くの人に読んでもらうための文章を書く場合には、印象だけで漢字・ひらがなを使い分けるのではなく、漢字で書ける文字は漢字で、読めない可能性がある文字はひらがなで書くという原則を理解しておく必要があります。
漢字とひらがなの使い分けの基本ルール
漢字とひらがなを使い分ける際の原則として、常用漢字表にある漢字は漢字で書いて、それ以外はひらがなやカタカナで書くというルールがあります。このようなルールは、新聞社や出版社で広く採用されているもので、より多くの人にとってなじみのある書き方だと言えます。
1. 常用漢字は漢字で書く
常用漢字表にある2136字は、原則として漢字で書きます。常用漢字表とは、日本の漢字の学習や使用における目安となっている漢字のリストです。
※常用漢字表のイメージ
2. 常用外漢字はひらがなで書く
一方で、常用漢字表にない漢字は別の語に置き換えたり、ひらがなで書いたりします。このように常用漢字表にない漢字のことを、常用外漢字といいます。例えば「薔薇」や「鬱」などは常用外漢字です。
3. 表外読みはひらがなで書く
表外読みについても、別の語を使ったり、ひらがなで書いたりします。表外読みとは、漢字自体は常用漢字表にあっても、その漢字の「読み」が常用漢字表に含まれていないもののことです。
上記のように、「想」という漢字自体は常用漢字表に含まれていますが、常用漢字表にあるのは「想」という漢字と「ソウ」という読み方だけです。この漢字を「想う(オモウ)」として使いたい場合、この「オモ」は表外読みとなります。そのため、原則としては「想う」ではなく「思う」と書きます。
出典:常用漢字表
常用漢字表に含まれていてもひらがなで書く例外ケース(一部の副詞、補助動詞、形式名詞、当て字など)
このような原則がありつつ、特定の副詞や当て字など、漢字本来の意味を失ったものについては、常用漢字表に含まれていてもひらがなで書くケースもあります。例えば、新聞や雑誌では、以下のように一部の副詞や補助動詞などはひらがなで書きます。
1. 一部の副詞
一部の副詞は漢字ではなく、ひらがなで書きます。例えば、副詞の「あくまで」はひらがなで書く語です。
他にも、以下のような副詞はひらがなで書きます。
- ますます
- かえって
- たちどころに
なぜひらがなで書くのか
漢字で書ける語にもかかわらず慣習的にひらがなで書くのは、漢字本来の意味が薄れた使い方のためです。例えば上記の例の「ますます」を漢字でかくと「増増」や「益益」となります。しかし「ますます」の意味である「以前よりも程度が甚だしくなるさま」には、「増(益)える」の意味は含まれていません。そのため、ひらがなで書くことで誤解がないようにしていると考えられます。
全ての副詞をひらがなで書くわけではなく、「幸いに」「重ねて」など漢字で書く副詞もあります。
2. 補助動詞
補助動詞はひらがなで書きます。例えば「町に行ってくる」の「くる」は補助的に使う動詞のため、ひらがなで書きます。
他にも、以下のような補助動詞はひらがなで書きます。
- 呼んでくる
- 知っている
- 来てください
なぜひらがなで書くのか
こちらも、漢字本来の意味が薄れた使い方のためひらがなで書きます。例えば、上記の「知っている」の「いる」を漢字で書くと「居る」となりますが、漢字の「居る」は「人や動物がある場所に存在する」ことを意味します。しかし「知っている」の「いる」にこのような意味はありません。そこで「知って居る」とは書かずに「知っている」と書きます。
3. 形式名詞
形式名詞はひらがなで書きます。たとえば「帰るとき」の「とき」はひらがなで書きます。
他にも以下のような形式名詞はひらがなで書きます。
- 知っていることを話す。
- これから出発するところです。
- 風邪が長引くときは病院にいったほうがいい。
なぜひらがなで書くのか
こちらも、漢字本来の意味が薄れた使い方のためひらがなで書きます。例えば上記の「とき」を漢字で書くと「時」となります。しかし「風邪が長引くとき」の「とき」には漢字本来の意味である「時間」や「時刻」の意味は含まれていません。そのため、ひらがなで書きます。
4. 当て字
当て字はひらがなで書きます。例えば「出来る」は当て字のため、ひらがなで書くのが原則です。
他にも以下のような当て字はひらがなで書きます。
- めでたし
- やぼなことを言うんじゃない。
なぜひらがなで書くのか
当て字は、漢字の本来の意味に関係なく、音や訓を借りて当てはめた漢字です。そのため、漢字本来の意味が失われた使い方のためひらがなで書きます。
慣習を優先する例外ケース
これまで紹介したようなルールを原則としながら、最終的には業界や領域で使っている文章のルールを優先します。たとえば「進捗」という語を「進捗(しんちょく)」と書くルールを採用している領域もあれば「進ちょく」と交ぜ書きで書く領域もあります。ビジネスシーンではルビも送り仮名も振らずに「進捗」と書くことが多いのではないでしょうか。
このように、その領域で受け継がれてきた方法を重視するのには理由があります。それは人は読み慣れた文章ほど読みやすいためです。どの領域においても一貫して読みやすい文章はなく、最終的には読み慣れていることが読みやすさにつながることが研究で明らかになっています。
[*出典:ひらがな文と漢字まじり文の読みやすさの比較研究]
文章校正ツールを使った「漢字とひらがなの使い分け」の自動チェック
日本語の漢字は非常に多くあり、すべての使い分けを記憶するのは大変です。しかし文書を通じて情報を伝える方にとって、漢字とひらがなの適切な使い分けはプロフェッショナルな印象を与え、読み手の理解を助ける重要な要素です。
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【さらに詳しく】漢字とひらがなの割合の最適なバランスとは?
漢字とひらがなの割合は何対何がよいのかという議論してがあります。「ひらがな7割に対して漢字3割がよい」「漢字は4割以内にとどめるのがよい」などの説がありますが、いずれも明確な根拠のある基準は見当たりません。「読み手としては漢字のほうが意味を素早く把握できるので漢字のほうが望ましい」という結果もあります。
重要なのは、漢字何割、ひらがな何割がよいと一律に定めるのではなく、読み手の慣習にしたがって書くことです。例えば公文書や論文などのように漢字の多い文章が一般的な領域では漢字を適切に使います。一方、小学生などひらがなが多い文章に慣れ親しんでいる対象者にはできるだけ漢字の少ない文を書くのが、読み手にとっての分かりやすさにつながります。
[*出典:漢字・仮名まじり文の読みやすさ]
[*出典:ひらがな文と漢字まじり文の読みやすさの比較研究]
漢字とひらがなの使い分け一覧表:ビジネス文書の参考に
漢字とひらがなの使い分けのうち、判断に迷うものを一覧で記載します。一般的な新聞や書籍などの表記とあわせて、公文書である「公用文」の書き方を紹介します。
1. できる(出来る)は漢字かひらがなか
「できる」を動詞や副詞などの形で使う場合には「できる」とひらがなで書きます。一方で、名詞や複合名詞として書く場合には「出来る」と漢字で書きます。公用文の場合にも同様のルールです。
動詞や副詞などの形
用事が出来た。出来るだけやってみます。私には出来ません。
用事ができた。できるだけやってみます。私にはできません。
名詞や複合語の形
上でき、でき心、でき事
上出来、出来心、出来事
2. ため(為)は漢字かひらがなか
「ため」は「為」ではなく「ため」とひらがなで書きます。公用文の場合にも同様のルールです。
念の為です。雪の為欠席します。撮影する為にここまできた。
念のためです。雪のため欠席します。撮影するためにここまできた。
3. および(及び)は漢字かひらがなか
接続詞の「および」は一般的な文章の場合は「および」とひらがなで、公用文の場合には「及び」と漢字で書きます。
一般的な文章
東京及び大阪で開催される。マンションの運営及び管理。
東京および大阪で開催される。マンションの運営および管理。
公用文
印鑑および証明書。住宅の建築および管理。
印鑑及び証明書。住宅の建築及び管理。
4. おふたり(お二人)は漢字かひらがなか
数字の「おふたり」は慣用的な表現のため「お二人」と書きます。公用文でも同様に漢字で書きます。ただし、「子どもが2人いる」「2人以上の勤労世帯」のように慣用的な表現ではなく単に数字を表す場合には洋数字で書きます(漢字で書く事例もあります)。
慣用的な表現
お2人は大阪から来たのですか。
お二人は大阪から来たのですか。
一般的に数字で書く表現
二人の先生。二人に内定を出した
2人の先生。2人に内定を出した
5. さまざま(様々)は漢字かひらがなか
「さまざま」はひらがなで書きます。公用文の場合には「様々」と漢字で書きます。
一般的な文章
様々な種類の豆があります。様々な考えに触れたい。
さまざまな種類の豆があります。さまざまな考えに触れたい。
公用文
さまざまな施策を推進します。さまざまな主体と連携した。
様々な施策を推進します。様々な主体と連携した。
6. たくさん(沢山)は漢字かひらがなか
副詞のたくさんは「たくさん」とひらがなで書きます。公用文の場合も同様にひらがなで書きます。
沢山の情報提供をいただきました。沢山の子どもたち。
たくさんの情報提供をいただきました。たくさんの子どもたち。
7. わかる(分かる)は漢字かひらがなか
わかるは「分かる」と漢字で書きます。公用文の場合も同様に漢字で書きます。
収入額がわかる書類。中身がわかるように書いてください。
収入額が分かる書類。中身が分かるように書いてください。
8. ぜひ(是非)は漢字かひらがなか
副詞のぜひは「ぜひ」とひらがなで書きます。名詞のぜひの場合は「是非」と漢字で書きます。公用文の場合にも同様のルールです。
副詞の「ぜひ」
是非教えてください。皆さまの声を是非聞かせてください。
ぜひ教えてください。皆さまの声をぜひ聞かせてください。
名詞の「是非」
実施のぜひを問う。法改正のぜひを論じる。
実施の是非を問う。法改正の是非を論じる。
9. 「おこなう(行う)」は漢字かひらがなか
おこなうは「行う」と漢字で書きます。公用文の場合にも同様のルールです。なお、行うの送り仮名は、一般的な文章では「行なう」とは書かずに「行う」と書きます。
入学試験をおこないます。これは補助しながらおこなう運動です。
入学試験を行います。これは補助しながら行う運動です。
10. 「みにつける(身につける)」は漢字かひらがなか
みにつけるは「身につける」と漢字で書きます。公用文の場合にも同様に漢字で書きます。
みにつけたいスキルがあります。ストレスの対処法をみにつける。
身につけたいスキルがあります。ストレスの対処法を身につける。
11. 「だいぶ(大分)」は漢字かひらがなか
副詞のだいぶは「だいぶ」とひらがなで書きます。公用文の場合には「大分(だいぶんとも読む)」と漢字で書きます。
一般的な文章
大分ご無沙汰しています。大分遠慮がちにうなずいた。
だいぶご無沙汰しています。だいぶ遠慮がちにうなずいた。
公用文
だいぶばらつきがあります。冊子のページがだいぶ増えています。
大分ばらつきがあります。冊子のページが大分増えています。
12. 「はじめまして(初めまして)」は漢字かひらがなか
はじめましては「初めまして」と漢字で書きます。公用文の場合には定めがありませんが、事例としては「初めまして」と漢字で書くケースが多くあります。
はじめまして、課長の山田です。
初めまして、課長の山田です。
まとめ:漢字とひらがなを使い分けてプロフェッショナルな文章を書く
漢字とひらがなの使い分けについて紹介しました。「出来る」や「為」など、漢字なのかひらがななのか、判断を迷う表記は多くあります。「読み手にとってより分かりやすい文章に書き換えたい」という方は、高精度の文章校正ツール「wordrabbit(ワードラビット)」を使えば、漢字とひらがなの使い分けを自動的に修正することができます。表現したい内容を読み手により分かりやすく伝えるために、この記事がお役に立てば幸いです。